地下水の恩恵を受けてきた具志頭地域、
その資源の価値を再評価し、現代における活用についてみんなで学ぶ

「地域円卓会議」とは地域社会において多様な主体が連携することをめざし、テーマを共有し、アイデアとネットワークを持ち寄る対話の場です。今回、この手法を開発した「公益財団法人みらいファンド沖縄」、「NPO法人まちなか研究所わくわく」の協力により、開催しました。

 3月8日(火)、八重瀬町役場2階大会議室にて「八重瀬町水資源のあり方に関する地域円卓会議」を開催しました。オンライン参加者も含めて38名(行政、農関係、教育機関、学生等)が参加し、2名の論点提供者と5名のセンターメンバーによって熱のこもった話し合いが行われました。参加者どうしのグループディスカッションも、現地、オンラインとも盛り上がりを見せていましたので、その概略をご報告します。

論点提供者                                    島添 和博 氏(八重瀬町役場 土木建設課) 、安元 純 氏(琉球大学 農学部)

着席者

・久保正雄 氏( 具志頭区長)
・ぐしともこ 氏( 湧き水 fun 倶楽部代表)
・屋宜芳文 氏( 屋宜農園代表)
・兼城純 氏( 南部水道企業団 管理課 課長)
・伊野博一 氏( 八重瀬町農林水産課 班長)

 司会進行:平良斗星 氏(公益財団法人みらいファンド沖縄副理事長)
 記 録 者:宮道喜一 氏(NPO 法人まちなか研究所わくわく事務局長)

「地域円卓会議」の板書に沿って、ご参加いただいた皆様の発言を「事実の提供」「評価の提供」「視点の提供」に分けて要約しながらご紹介します。

事実の提供  

 八重瀬町は水資源と暮らしが密接にかかわっています。とくに具志頭地区は雨が浸透しやすい琉球石灰岩が広く分布しており、地下水が豊富な地域です。八重瀬町は農業と畜産業が盛んで、環境保全をおこないながら、産業を発展させるための課題に向き合っています。
 琉球大学では、2014年から「水循環プロジェクト」を立ち上げ、沖縄を基点とした亜熱帯、熱帯、島嶼地域の健全化を目指し、水資源を有効に利用・管理していくための研究をおこなってきました。八重瀬町には「地下水保護条例」がありますが、水資源に関する専門的な知見が不足していたため、2019年11月より琉球大学と協働で、研究活動や地域活動を行い、状況改善の方法を模索してきました。
 具志頭地区に存在する湧き水の一つに、大きな泉の屋富祖(ヤフガー)があり、30年間ほど直接飲料水として利用されていましたが、現在は南部水道企業団が管理して農業用水として利用されています。南部水道企業団は、2002年から地下ダム取水を開始し、現在一日2500トンを供給しています。
 また、沖縄県内には1000か所を超える湧き水が存在し、生活用水、農業用水としてだけでなく、地域行事など文化的側面からも人々の暮らしに深くかかわってきました。近年では防災の役割としての湧き水も注目されています。

屋富井(ヤフガー)

評価の提供

 まずは農家さんの視点から、農業用水としての慶座地下ダムの有用性があがりました。バルブをひねるだけで水が出て、動力なしでスプリンクラーを回すことができるので、とても使いやすいそうです。地下ダムができる前は、サトウキビやイモが主な作物でしたが、地下ダムができてからはハウス栽培で野菜が出荷できるようになり、農家の収入が増えたそうです。しかし、水質管理については安全面を考慮しながら対策していく必要があります。1962年から60年間、地下水が継続して利用されているということは、八重瀬町、特に具志頭地域が豊かな水資源に恵まれている地域であることの証です。2020年度におこなった「水資源と生活に関するアンケート」では、「拝みの場」として湧き水が地域ぐるみで大切に守られていることが分かりました。この地域円卓会議では、そんな八重瀬町の水資源を安心して使い続けられるようにしたい、という総意が得られました。

八重瀬町の野菜畑

視点の提供

 議論の終盤では、まずは八重瀬町民に自分たちの住んでいる土地の地下水資源が豊富であるということを知ってもらうことから始め、地域の人々が関わって一緒に管理していくための流域ガバナンスを構築していくことが必要である、という声があがりました。それには、環境・文化・観光などの多角的な視点から、多様な分野・世代の人々が集まって議論できる「流域協議会」のような場が求められます。最も難しいのは、八重瀬町の水資源について知るための「場づくり」と働きかけの方法、それらの取り組みを経て一人ひとりが「自分のこと」として環境保全の意識を持つための具体的な計画を考え、継続的に実行していくことです。参加者からは、「ヤフガーを親水公園として活用してはどうか。」「釣り場や水車などの遊び場を作ってはどうか。」「稲作体験ができる田んぼを作って伝統行事の綱引きのための綱わらづくりができないか。」「水の硬度が高いことを活かして、エスプレッソやコーヒーを販売してはどうか。」など様々なアイディアが出ていました。

ディスカッションの板書記録

最後にまとめとして、以下の点があがりました。
・八重瀬町は水資源を有効に活用している先進地である。
・あらゆる世代が水との接点を増やしていく企画が必要である。
・水への理解を深め、マルチステークホルダーで課題解決をおこなっていくことが重要である。
・行政と連携し、住民も責任を持つことのできる議論の場が必要である。
・地元の研究者は、自然科学的なエビデンスの提供、子どもたち、地域の方々と一緒にテーマを設定し調べていくアクションリサーチの提案をしていく。

会議の様子はYoutubeでご視聴いただけます。

「八重瀬町水資源に関する地域円卓会議」(令和4年3月8日@八重瀬町役場)
(※動画の1時間22分25秒~1時間33分00秒は休憩時間ですので、映像下部の赤いシークバーを操作し、飛ばしてご覧ください。)